青空のもとで、一人の女性が働いていた。 彼女の頭上の青色は、もう空とは思えないほどに雲ひとつなく 広がり続け、遥かな視界の果てでは大地まで行きついている。 そんな青色の下で、純白のワンピースに身を包んだ女性が、これ もまた、見渡す限りに足元を埋め尽くす緑の玉を眺めていた。 そのそれぞれが薄く輝いて見えるのは、一つ一つがしっかと大地 に根を下ろし、その身一杯に栄養を蓄えているためか、それとも この晴天のもと、いつ降ったのか知れない水が、いつまでもその 表面を潤しているためか。また、少なくともその形を捉えること のできるすべての玉が、違う姿をしている。 好き勝手に場所を取る玉の間を歩きながら、遠くを見て彼女は 思った。ああ、やっぱり私では、あんまり離れちゃ判らないわ。 でも、判る人なんて二人もいれば十二分よね。 思って、一人でくすくすと笑う。すると、何やらかさりと音が した。その音を辿って振り返れば、どうやら少し離れていて、彼 女は踵を返して駆け出した。進路に溢れる玉の間を縫って、しば らく行くと、音の源へたどり着いた。足を止め、その傍らに立つ。 それは、今にも枯れ果てようとする玉であった。きらめく水は 失われ、その身を満たす輝きは薄らぎ、乾いた音を立てながらし ぼんでゆく。やがて彼女の手のひらに収まってしまうほどの大き さになった玉は、こき、と小さく音をたてて根元から折れ、大地 にその身を横たえた。その様子をただ見守っていた彼女は、寂し げに微笑むと、沈黙した玉だったものに手を伸ばした。優しく数 度撫でてやり、そのあと両手でそっとそれを包み込むと、小さく 息をはいて目を閉じた。数秒の後、意を決したように肩に力を入 れ、一息に手の中のものを押しつぶした。 目を開けて両手を離すと、ぼろぼろと枯れた欠片がこぼれた。 悲しそうにそれを見つめながら、彼女は手に付いたそれらを余さ ず払い落した。また両手で包み込むように、大地に散らばったそ れらをぽんぽんと叩くと、そこにあった欠片は、全てがすぐに大 地へ溶け込んでしまった。 そうして、彼女が玉一つ分空いてしまった大地に寄り添うよう にしゃがみこんでいると、またしても小さな音が彼女の耳に飛び 込んだ。今度のそれは、音のようであると同時に、むしろ何かの 予感のようなものだった。そしてそれは、しゃがみ込む彼女のす ぐ隣からあふれ出ていた。 彼女がそちらを向くと、そこには、周りのものよりもいっそう 強く光を放つ一つの玉があった。はっとしたように目を見開いた あと、彼女の顔には笑いがこぼれた。彼女はそちらのほうに向き なおると、まだ大地と固くつながっているように見える玉の根元 へ両手を伸ばした。確かめるようにその表面をさすりながら、玉 の底を支えるように手を添える。すると、しっかりと根を張って いたはずの玉は、まるでそれ自体が浮き上がるように、すうっと 大地を離れ、持ち上げられた。ついには捧げるように持っていた 彼女の手をも離れ、輝きを増しながら空へと昇ってゆき、やがて 輝きそのものとなって、次の瞬間には姿を消した。 彼女は、両手を高く掲げたままで、満足げにそれを眺めていた。 玉が姿を消してしまってから、ひらひらと両手を振って、いって らっしゃい、と呟いた。その暖かい声は、ひとしきり空へ響き渡 り、吸い込まれた。 視線を下ろし、彼女は何かをやり遂げたような、あるいはそれ を見届けたような、満たされた心持で、深呼吸をした。そして、 もう一度しゃがみ込み、いつかまた芽が出るかもしれない空地を 一撫ですると、立ち上がる勢いで大きく体を伸ばし、再び、玉を 避けながら歩きだした。 また玉の行く末を見届け、そして見送るため、玉の輝きが絶え ないことを祈りながら、彼女は歩き続ける。
|
|
|